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日本語と縄文語(6) カエル

前回は、フキノトウをバッケ という方言について縄文語から解説しましたが、今回は「カエル=蛙」についてです。
カエルの呼び名は地方でさまざまに呼ばれています。

 「方言の多様性から見る日本語の将来(木部暢子著)」(⇒ こちら ) から少し引用させていただきます。
ここにカエルの呼び名の分布図が書かれています。

kaeru.png

これによると本当にさまざまな呼び名で呼ばれている事がわかります。
カエル、ガエル、ギャワズ、ガワ、ゲッツ、ゲー、ゴット、ガット、ヒキ、ビキ、ビッキ、ビキタン、ビキタロー、ドンビキ、オンビキ、アタビチ、ドンタ、ドンコ、ワクド、バクド、アップ、タップ、アタラ、アンゴ、ベットー、ジョーコ、チロッコ、モッケ・・・・・・・など
(書かれているものも紹介の図がよく読み取れないので全部ではない)

しかし、これをグループ分けしている。
1) 「カエル、ガエル」グループ・・・ 下記をのぞく多くの地域
2) 「ヒキ」・・・ 四国、山口、広島西部など
3) 「ビキ、ビッキ、ビキタンなど」・・・ 九州南部(沖縄含む)、九州北部、和歌山東部、東北全般(秋田・青森一部を除く)
4) 「アンゴ」・・・ 千葉房総
5) 「ワクド、パクド」・・・福岡東部・大分東部
6) 「モッケ」・・・ 秋田、青森(下北はビッキグループ)
7) 「ゴト、ガット、ゴトビキ」・・・ 和歌山県

特にこの3)のビキ ビッキ、ビキタングループは九州と東北のともに広い範囲で使われている。

上に紹介した論文ではこれを
 (1)方言周圏論:中央部で変化が起きる。中央部ほど新しく、周辺部ほど古い。
 (2)孤立変遷論:周辺部で変化が起きる。中央部ほど古く、周辺部ほど新しい。
 (3)接触説:異なる方言(言語)が接触して、一方または双方に変化が起きる。
という3つの考え方で分類し、(1)方言周圏論と(2)孤立変遷論が融合したものなどで分類解釈をしようとしている。
また柳田國男が提唱した蝸牛(かたつむり)型の渦巻き型伝播なども論じておられます。
まあ、私には余り理解できませんが、言語学の世界はまだまだ未知のことが多そうです。
ただ言葉の伝播についての法則はあっても、なぜそのような言葉となったのかについては触れられていないようです。

ではこれを縄文語で解釈していきましょう。
(鈴木健「日本語になった縄文語」から)

1、 【ガマガエル】 : 【ガマ(穴)】 に 【カマ(コモ)る】 ⇒ 【ガマ】 

前回【ka 上 mu ふさがっている】 ⇒ 【kamu かぶさる 覆う】
となるから 【kama 穴、くぼみ、火山の噴火口】等も此の派生語と説明をしました。
また【kama ⇒ gama ガマ】も同じ穴などを表わす方言が各地にあります。
さらに【kama ⇒ komo ⇒ 籠もる】ともなったと考えられます。

2、【ヒキ】【ビキ】【オンビキ】【ビッキ】等 ⇒ 【pakko 老婆】が語源

 1) bakki バッキ : 宮崎椎葉 で伯母
 2) bakkui バックイ: 静岡川根 で大蛙
 3) bakkun バックン: 大分でガマ、ヒキガエル
 4) バク : 大分南海部でガマ
 5) bikki ビッキ: 東北、栃木塩原、新潟岩船、岐阜揖斐、滋賀東浅井、佐賀藤津 で 蛙
 6) biki ビキ: 盛岡、青森、岐阜揖斐、三重南牟婁、奈良吉野、和歌山東牟婁、徳島、愛媛、土佐、九州 で 蛙
 7) hiki ヒキ: 和歌山、大坂泉北、香川直島、広島安芸、島根鹿足、山口 で 蛙(ヒキガエル)
 8) onnbiki オンビキ: 土佐、奈良宇陀、和歌山、兵庫、広島、四国、大分 で 蛙(ヒキガエル)
 9) onnba オンバ : 愛媛温泉

などの語源を探していくと「ウバ 姥」になるという。
千葉県君津で オオバコのことを「オンバッパ」というが、これは昔、蛙釣りにオオバコの葉茎からとった筋の先に葉を小さく丸めて縛ったものを使ったという。
このため、カエルッパなどと野州、奥州などの幼児語でオオバコのことを呼ぶ。

また、大分北海部では蛙のことをウバとも呼ぶところがある

さて、アイヌ語で老婆のことはいろいろな呼び名があります。「アハチ」「フチ」「イコンホノ」・・・・
しかし、古くからのアイヌ語として残されている言葉もあり、【pakko パッコ 老婆】ともいいます。

この【pakko パッコ 老婆】が各地で、バックイ、バックン、バク、ビキ 等に変化し 【バク】【ビキ】 ⇒ 【バケ】 に転化した。

というのです。
「パッコ 老婆」と 「バク・バックイ: ガマ(カエル)」は発音が近いのと、どことなく動きや体つきなども似ていると思われたのかもしれません。

これは、昔話の「姥皮 ウバガワ ウハカワ」などではガマガエルの皮で作った頭巾をかぶると少女が老婆に変装するという話となったのではないか。
また「化けの皮」という言葉もここから生れたのかも知れないとしている。

姥皮についてはまた別途昔話などのところで紹介したいと思う。

また、昔のかえるの表現にはその鳴き声から呼ばれた言葉もあります。
万葉集の歌に見えるカエルの表現には「蟾蜍(たにぐく)」と出てきます。

・・・・・山のそき 野のそき見よと 伴とも の部へを 班あかち遣つかはし 山彦の 応へむ極きはみ たにぐくの さ渡る極きはみ 国状くにかたを 見めしたまひて 冬ごもり 春さり行かば 飛ぶ鳥の 早く来まさね・・・・・
(高橋連虫麻呂 万葉集 巻六 九七一)

これは「カエルが歩き回る陸の限りまで・・」という意味です。

この「ぐく」というのは恐らくかえるの鳴き声から使われたものと思われます。今のアイヌ語でも「ケッケッ」というようです。
又食用で食べられるから 【kaket ケッケッと鳴く】+【chep 食べ物】 【kaketchep】 という言い方もされます。
【chep】 は鮭や魚などの好物の食べ物に使われています。
カエルは大昔の人々(縄文人)には大好物だったのかもしれません。

このカエルが縄文人の好物だということは、日本書紀にでてきます。

日本書紀の応神天皇 19年の条によれば、応神天皇が吉野宮に行幸した際,国樔(くず)が酒を献上にやってきた事が書かれており、「その人となり,甚だ淳朴なり,毎 (つね) に山の菓を取りて食う,また蝦蟆 (かえる) を煮て上味とす,名づけて毛瀰 (もみ) という」
とあります。 国樔(くず)は常陸風土記にも出てきますが、当時に日本に暮らしていた人々(縄文人)のことを指します。
ですから当時カエルのことを縄文人たちは「毛瀰 (もみ) 」といって好物として食べていたという事になります。

【mom 流れる、ただよう】+【i もの】⇒ 【momi モミ ヒキガエル(食用)】

ではなかろうかという。
今でも、奈良県吉野の浄見原(きよみはら)神社では旧暦1月14日にウグイ、にごり酒などと共に「毛瀰 (もみ) 」も奉納されるという。

またこの【momi モミ】については和名抄に 【ムササビ のことを 毛美 モミ 】と表示されている。
ムササビやモモンガ もまた羽を広げて飛行する姿から 【momi】 からそう呼ばれたのではないか。

またカエルのことを「モミ」といった事から、

【モミの手(蛙の手)】 ⇒ 「モミテ】 ⇒ 【モミチ】 となり 【蛙手】 ⇒ 【カヘテ】 )】
となったのではないかという。

もちろん「モミヂ」については、紅花を揉んで赤い色を出す事から「モミイヅ」となり、「モミヂ」となったとの説明がある事は承知の上だという。

さて、大分複雑になってきましたね。
いろいろな語源説明はありますが、この縄文語がもう少し国文学で体系的に県境がされれば、ここに書かれている事柄もきっと理解出来るのではないでしょうか。

ここまでは「カエル、カヘル」の言葉には触れていませんが、これも推論ですが、

【ka 上面 + para 広い =kapar 水中の平岩】 と姿が似ていることから連想されたのかもしれないという。
カヘル、カワヅなどに変化したのだろう。 
近代アイヌ語ではカエルは【terkep】という。
これも 【terke 跳ぶ】 + 【p もの】 とから来ている。

今までの「日本語と縄文語」を1から読みたい人は ⇒ こちらから

日本語と縄文語 | コメント(0) | トラックバック(0) | 2020/05/07 05:41
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