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甲子夜話の面白き世界(第16話)珍獣の話し(2)豹と虎

甲子夜話の世界(16)

(今までの「甲子夜話の面白き世界」の第1話からは ⇒ こちら から読めます)

江戸時代に長崎からいろいろな動物が日本に入ってきた。
今回は「豹(ひょう)、虎(とら)」について

《1》 豹か虎か

 この(己丑)正月、平戸からの便りによると、平戸嶋田助浦では、対馬人が生きた虎をつれて来たのを城の外門に呼んで見たという。図も描かせた。

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図。この虎の来歴を聞き書きした。

一、 背のわたり2尺7,8寸ばかり、首1尺余り、尾2尺7,8寸ばかり、高さ2尺2,3寸ばかりあり。
虎の大きなものは、体のわたり1間半ばかりのものもあるという。
これはまだ3歳で、籠内に入れて育てられる故、大きくなるかどうか確かめた方がよい。

一、 子を得た時は、猫ほどの大きさなので膝の上で飼い育ててもよい。

一、 声は、ヲ、ンウ、ンとだけいう。犬が呻くに似ている。
時により声高で、物すごく真似しがたい声のよし(虎は既に詩文に多い。豹の鳴き声は諸書に書かれていない)。

一、 餌は鳥獣を専ら食い、油少なき魚類も食べるが、腹にあたって良くない。
また獣も、猫は似ている故か、くい殺しはするが、しかと食わず。
犬は好物である。穀類は一向に食わず。鶏の餌袋など、穀類がある故か、残して食わず。
野菜、芋、大根類もすべて食わず。
常に1日に鳥3羽ばかり食すると、飽かないが、先ず足りてるようだ。
飽くまで食すると、至って静かになって眠る。
また食が足りないときは荒れ廻り、食をせめあさっている。

一、 朝を与える時、鶏ならば毛を抜いて、3つばかりに切って食わせること。
獣もこのように切って食わせるように。
生で与えるならば、おのれで毛をとり食するが、籠の中を汚す故、料理して与えるとよい。
鳥獣の骨をかみ砕く事は、例えば人が煎餅をかむように、歯にもさわらむ気色である。

一、 雌雄で見分け方は難しい。改めて見る事を嫌う故、男のようにあるが、飼い主も知り得ない。

一、 世の人は虎は雄で、豹は雌といっている。飼っている人が云うには、虎にも雄雌がある。
また豹にも雄雌があるという(飼い人の言う事である。前説は非であるので従うことのないよう)。

一、 蠅蚊ともに近寄らない。

一、 両便とも同じ場でする。きちんとしている。

一、 筑州で大守が見ようと、竹のやらいを結び廻して、その中に虎の子2匹を放した。
餌を生ながら与えられると、2匹で争い餌を取るありさまは、猛(たけ)くするどく、びっくりするが、1匹の虎が餌に手をつけ、先んじて食べた方は、退き、やらいのすみに引っ込む。
神妙に心清きさまは、こと獣の中でも優れていると云える。

一、 芽は常に丸く、変わる事はない。

一、 飛び上がる時は、4,5間(3.272~5.09㍍)ばかり揚がるよし。

一、 今1匹加島で死んだのは、黄色に黒い星があって、中に穴がなかったという。
この度連れてきたのは、毛に黒い輪があって穴がある(『本草集解』に云う。
豹の毛は赤黄、文は黒く銭のよう、しかも中が空になり、体のあちこちに見る。
これが黒い毛の輪が廻して穴があるということ。穴と云うのは文の拙いこと。
また云う。豹の姿は虎に似てしかも小さい。白面に丸頭、自らその毛を抜いている。
この文は銭のようで金銭豹という。皮衣の如く。
艾(よもぎ)葉の如き者、艾葉豹という。これが黒星で中に穴なしと云う者)。

一、 朝鮮人が語ることを、飼い主がいっている。虎は三子生まれ、必ず1匹は豹である。
豹は三子を生み、必ず1匹は虎である。
(『集解』に云う。『禽虫述』に云う。虎三子を生んで、1匹は豹を為す。
則ち豹は変化する者である。寇氏は未だそれを知らず。
朝鮮人の言葉は、思うにここに基づく。
だがこれは、虎が豹を産することではないだろう。豹が変ずることと聞こえないか)。

一、 この高さは1間余り、横3尺ばかり。

一、 この度、周防船に便船して参るよし。飼人はみな対州の人である。
上は文政11年子12月、対州から町人等虎児と1匹を籠に入れて持ってきた。
そこで質疑をしたが虚実を明らかにせず、いうがままにこれを記す。

      12月15日

      追加
ある人曰く。この獣を筑州前に至り、かの城下では、見物人の中に歌妓がいた。
籠に近寄り覗いていたら虎は手を出して、この婦人の髪を掴んだ。
婦人は恐れて頭を引いたが、虎は離さなかった。
遂に頭髪みな切れて、禿げてしまった。
危ない事だが、また可笑(おか)しなことになってしまった。

続編 巻之22 〔15〕  ← クリック 元記事

《2》 義心の獣(虎)

 ある人の話である。 
 対州から朝鮮へ出張(デバリ)の在番所があった。
ここで在番の者が、一年(アルトン)春色を楽しもうと野外に遊山した。
席を敷き、行厨(ベントウ)を出して賑やかに飲食をしていたところ、ふと小狗(コイヌ)のような獣があらわれた。

 人々は何の獣かと気にせず、可愛らしく思い肴類を投げ与えた。
獣も悦んで食する様子なので、みなは互いに投げ与えた。

 ふと1人が向うを見ると、1,2町くらいはなれていただろうか、小阜(コヤマ)の上に虎が踞(うずくま)っていた。
その眼光は星のようだった。
人々ははじめて心づいて、「この小狗は絶対虎の子で、向こうにいるのは父獣にちがいない。もち疑えば、たちまち害心を興すだろう。速やかに逃げろ!」。

 人々は行厨を捨て置いて、瞬く間にその場を去り、宿所にもどった。
それから夜に入って、宿所の戸外で物音がした。察するに獣の足音のようだった。
人々は思った。「今日の虎が、(我々が)子に接したことを怒り、2度と近づくなといいたいのか」。
戸内に兵器を設けたがよいか。
また両刀を帯している者もいる。
それなのに来て帰るの様子である。
それで特別に何かことを起こしたわけでもなかった。

 みなは訝しく思い、ひそかに戸孔から窺うと、昨日野外に持って行った行厨の道具を丁寧に並べて置いていて、脇には鴨を2羽添えている。

 何と我々は節穴であったか。人は集まって口々に言い合った。
定めて先刻の父虎は、己の子を可愛がったことに恩を感じで、このような事をしたのだろう。
すると虎は猛謀といえども、すこぶる義心ある獣であると人は云った。

 この事は、わしの臣の中に、対馬侯に縁者があった事から知った話である。

 これを親しく聞いたところである。
またごく最近のことであるという。

続編 巻之94 〔18〕  ← クリック 元記事

《3》 虎と熊の馬の捕獲法

 わしの内に、対州(対馬国)より召抱えている士がいる。
この者は郷国で度々朝鮮の和館に行った。
その者の話で、虎が馬を捕獲する様子について人は信じ難く思っている。

しかし、近頃わしの隠れ家に対馬侯の馬役が来て同じ話をしたのだ。
それからというもの人々は前言を信じるようになった。

虎が馬をとろうとする時、まず馬とともに数回走り、それから馬の背に跨がる。
馬は驚いて、速度を上げる。
もし馬の走りが遅ければ、虎は自分の尾で打って馬を更に走らせる。

遂に息切れて、馬は倒れてしまい、そして虎は馬を食うと云う。
猛獣も初めから、(馬を取って食おうとしないと見える。

また一方、蝦夷地では熊がやはり馬を取るやり方がある。
初めから馬に飛びかかり、ひしひしと馬の脚を折って、そして肩にそれを負うて去ると云う。

となると熊の勇猛さは、虎より勝ると云うべきだろう。

巻之21 〔8〕  ← クリック 元記事

甲子夜話の面白き世界 | コメント(0) | トラックバック(0) | 2021/10/09 07:21
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