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茨城の難読地名(その14)-女方、女化、男神

難読地名14

シリーズ1回目からは ⇒ こちら 

女方 【おざかた】 筑西市(下館)
女化 【おなばけ】 龍ケ崎市、牛久市
女沼 【おなぬま】 古賀市
男神 【おがみ】 かすみがうら市

全国に「女」や「男」という字が入る地名は数多い。 でも茨城県には意外に少ない。
上の4つがあったが、最初の女方=おざかた は読めないか。

少し由来を調べてみた。

1) 女方【おざかた】

女方は筑西市(旧下館市)の鬼怒川左岸にあります。下館駅の西側、「川島」駅の南側にあります。
この鬼怒川左岸の台地(河岸段丘)には「女方遺跡」と呼ばれる弥生時代中期の遺跡があります。
この遺跡からは「再葬墓」の存在が確認されていて、とても貴重な遺跡といわれています。
再埋葬というのは、一度埋葬して白骨となった人骨を壺(土器)に入れて埋葬しなおすというものです。
またその前の縄文時代の遺跡「本田前(ほんでんまえ)遺跡」もあります。
また出土した土器の口の部分に人面が形つけられたもの(人面付壺形土器:東京国立博物館所蔵)が発見されています。

また江戸初期の17世紀半ばには鬼怒川を水運として使うための河岸(女方河岸)ができていた。
女方の地名が江戸時代初期から使われていたことは判明したが、いつごろから使われた言葉なのかわからなかった。

この女方は弥生人の祈りの場であったのかもしれません。
また鬼怒川もかなり暴れ川であったのでこのあたりの地形に関係しているのかもしれません。

全国の「女」と付く地名の多くに名前の由来に伝説がついているものが多くあります。
この女方(おざかた)にも平将門伝説がありました。

「将門には正妻と言われた「君の前」のほかに妾が何人かおりました。その中の一人「桔梗の前」はとても美人で将門は特に可愛がっていました。そして桔梗の前は、この女方の「女館」に住んでいました。
しかしこの桔梗の前は将門を狙っていた藤原秀郷(俵藤太)が送ったスパイだったのです。
将門には何人も影武者がおり、また不死身であり、どうしても倒すことができなかったのです。
しかし本物はこめかみに弱点があることをこの桔梗の前が藤原秀郷に教えたため、将門はついに倒されてしまいました。」
(御伽草子の俵藤太物語)
その場所がこの女方だというのです。
こんな話を聞くと「女館(おんなかん)」が「女方(おざかた)」に変化したとも考えられますね。

それにしても「館(やかた)」という字がつく歴史的に重要な「下館(しもだて)」という地名が消えて、筑西市になってしまったのはさみしいですね。

2) 女化【おなばけ】

女化(おなばけ)は住所表記では牛久市女化町となっていますが、ここにある「女化稲荷神社」は龍ケ崎市馴馬町の飛地になっています。また女化稲荷神社は少し離れた牛久市の女化原に奥ノ院があります。

この「女化(おなばけ)」の名前の由来はそれほど古くは無いようで、女化原に伝わるキツネの伝承によるといわれています。
女化(稲荷)神社の創建ははっきりしませんが、室町時代末期の1509年に創建された説やもっと前からあるともいろいろな説があるようです。この神社の祭神は「保食神(うけもちのかみ)」で、昔の神社名は「稲荷大明神」と呼ばれたものが、「女化稲荷社」となり、明治2年に「保食神社」に変更されたのですが、また明治17年に「女化神社」に改名されています。

「 むかし、根本村(現在の新利根村根本)に忠五郎というやさしい若者がいました。
 ある日、土浦で筵(むしろ)を売っての帰り道、女化ヶ原(おなばけがは)にさしかかると一人の猟師が眠っている大きな白ぎつねを射ようとしていたので、忠五郎が大きなせきばらいをしてきつねを逃がしてあげました。「ひとの仕事を邪魔しやがって」と猟師は怒りましたが、筵の売上全部を出して謝りました。
 その夜のこと、忠五郎の家に若い娘と老人がたずねてきました。「奥州から鎌倉へ行く途中、道に迷って困っています。どうか一晩泊めて下さい。」忠五郎は二人を泊めてあげました。

 翌朝、忠五郎が目をさますと、下男に路銀(お金)を持ち逃げされてしまったと娘が泣いていました。 そこで娘は忠五郎の家にしばらく居ることになりました。
 八重という この娘は、この世のものとは思われない美しさで気立てのやさしい働き者で、やがて忠五郎の嫁になりました。
 幸せな家庭に8年の月日が流れ、鶴、亀次郎、竹松という三人の子供に恵まれました。

 ある秋の日、八重は竹松の添寝をしているうちに寝入ってしまったところを遊びから帰ってきた子供たちが見ると、母親に大きな尻尾(しっぽ)が出ているではありませんか。
 「大変だ~、おっ母かあがきつねになっちゃった~!」 と腰を抜かさんばかりに驚き、父親のところへとんでいきました。
 忠五郎が急いで帰ってみると八重の姿はなく、
 「みどり子の母はと問わば女化の原に泣く泣く伏すと答えよ」
という書き置きだけがありました。

 忠五郎が三人の子供を連れて、きつねの足跡を追ってくると、森の中に穴があり、そこはあの女化ヶ原でした。
 「おっ母!出て来ておくれ。」と涙ながらに呼びかけました。すると中から
 「こんな姿になって、もう会うことは出来ません。」と声がしました。
 「どんな姿でも驚かないから出て来ておくれ!」
 「ほんとうに驚かないでくださいね。」と一匹のきつねが穴から飛び出して、子供たちの顔をジーッと見つめ、
 「私がおまえたちの守り神になります。」と泣きながら走り去りました。
 この穴は、女化稲荷の北方300m位の所にあり、「お穴」として祀まつられています。」
(牛久市観光協会、娘に化けた狐のはなし(女化原の狐伝説)より)

また後日談として、この三人の子供の末っ子「竹松」の子孫が 戦国時代の牛久城主岡見宗治に仕えた武将「栗林左京亮」の家来となり、その後大活躍した「栗林義長」で、キツネのご加護で敵を倒すことができ、この女化神社を建てたとの話もあります。

またこの地を廻っていると、「女化騒動・牛久助郷一揆」の看板を見ました。
1804年10月に、この女化原に周辺55ヶ村の百姓たちが徒党を組み、牛久宿問屋の麻屋治左衛門の居宅などを打壊して騒動となりました。これは助郷制度という制度に悩む近隣の村の農民たちが、その制度の延期を測る名主などに反発しておこしたものでした。 この場所は、幕府の直轄天領で、ここに鎮圧に駆け付けたのが「土浦藩」と「佐倉藩」で、2つの藩の先陣争いも見られました。

いずれにしても女に化けたキツネが地名の由来になっていると考えられる場所です。

3) 女沼【おなぬま】

女沼は地名では「おなぬま」と読むが、近くを流れる「女沼川」は「めぬまがわ」と読む。
女沼川は茨城県と栃木県との県境に源を発し、利根川にそそぐ一級河川です。
また女沼とよばれる地名はこの川に添ってありますが、現在は古賀市ですが、合併前は総和町です。

この地域は川が数本入り組んでおり、このあたりに沼があっても不思議ではありません。
農業も盛んなようで「小森谷(こもりや)」さんという名前の方が多い地域です。

全国的に見ると「女沼」「化女沼」などの地名や沼の名前がありますが、その多くに伝承としての昔話などが残されています。
この古賀市の女沼にまつわる話も探してみましたが、今のところ見つかっていません。

4) 男神【おがみ】

男神はかすみがうら市の旧出島地区、牛渡(うしわた)と安食(あんじき)とを結ぶ線の中間あたりにあります。
静岡の牧之原には「男神」「女神」「鬼神」という3つの名前が隣接してある場所がありますが、この近くの地名は「男神」だけです。
しかし、この近くの「歩崎観音」 には「竜女」伝説があります。

また、この地には「男神遺跡」「男神貝塚」といわれる縄文時代の遺跡があります。
文禄4年(1596)の知行目録に、「おかみ」とありますので、それ以前からある地名だとわかりますが、地名の由来はわかりませんでした。
多くの男神地名には「男の神」ということでスサノオやタケミカヅチなどの神が由来であったり、大岩信仰が由来の元であったりします。
しかし、この場所はもしかしたら「拝む」などが言葉の語源という場合もありそうな気がします。

なお、石岡市葦穂地区の小字名に「女堰(おんなぜき)」という地名がありますが、これには伝説として、「用水路に流すための堰を作ったが、何度つくっても大雨などで壊されてしまうので、女を人柱にたてて工事したところ、それ以降堰が壊れ亡くなったので名付けられたという」 などという今では考えられないような話が伝説として伝わっています。

全国の女・男が付く地名を調べましたので以下に記載しておきます。

<女の付く地名>
北海道函館市女那川町(おながわちょう)
北海道網走郡大空町女満別(おしゃまんべつ)
青森県青森市浪岡女鹿沢(おめがさわ)
青森県弘前市青女子(あおなご)
岩手県奥州市衣川区采女沢(うねめざわ)
岩手県奥州市衣川区女石(おんないし)
岩手県二戸郡一戸町女鹿(めが)
宮城県仙台市泉区八乙女(やおとめ)
宮城県石巻市北上町女川(おながわ)
宮城県栗原市一迫女子町(おながわちょう)
宮城県柴田郡大河原町八乙女(やおとめ)
宮城県牡鹿郡女川町(おながわちょう)
秋田県秋田市雄和女米木(めめき)
秋田県男鹿市船川港女川(おんながわ)
山形県山形市早乙女(さおとめ)
福島県白河市女石(おんないし)
福島県南相馬市小高区女場(おなば)
茨城県古河市女沼(おなぬま)
栃木県小山市乙女(おとめ)
栃木県さくら市早乙女(そうとめ)
群馬県前橋市女屋町(おなやまち)
群馬県前橋市粕川町女渕(おなぶち)
群馬県伊勢崎市境女塚(おなづか)
群馬県利根郡みなかみ町奈女沢(なめざわ)
埼玉県戸田市美女木(びじょぎ)
埼玉県三郷市采女(うねめ)
埼玉県日高市女影(おなかげ)
千葉県いすみ市八乙女(やおとめ)
新潟県新潟市中央区女池(めいけ)
新潟県柏崎市女谷(おなだに)
新潟県阿賀野市女堂(おんなどう)
富山県高岡市三女子(さんよし)
富山県魚津市山女(あけび)
富山県中新川郡上市町女川(おながわ)
富山県中新川郡立山町美女平(びじょだいら)
石川県かほく市元女(がんにょ)
石川県白山市女原(おなばら)
石川県羽咋郡志賀町宿女(やどめ)
石川県鳳珠郡穴水町女良川(めらがわ)
福井県坂井市丸岡町女形谷(おおがたに)
福井県坂井市丸岡町玄女(げんにょ)
福井県南条郡南越前町八乙女(やおとめ)
長野県松本市女鳥羽(めとば)
長野県小諸市乙女(おとめ)
静岡県静岡市葵区産女(うぶめ)
静岡県浜松市北区引佐町西久留女木(くるめき)
静岡県牧之原市鬼女新田(じょしんでん)
静岡県牧之原市女神(めかみ)
愛知県名古屋市中川区五女子(ごにょうし)
三重県四日市市釆女町(うねめちょう)
滋賀県甲賀市土山町山女原(あけびはら)
滋賀県東近江市乙女浜町(おとめはまちょう)
京都府京都市北区上賀茂女夫岩町(めおといわちょう)
京都府京都市下京区佐女牛井町(さめがいちょう)
京都府京都市伏見区下鳥羽澱女町(よどめちょう)
京都府舞鶴市女布(にょう)
京都府向日市物集女町(もずめちょう)
京都府八幡市内里女谷(ざとおんなだに)
京都府八幡市八幡女郎花(おみなえし)
京都府京丹後市久美浜町女布(にょう)
岡山県苫田郡鏡野町女原(おなばら)
広島県呉市安浦町女子畑(おなごばた)
広島県安芸高田市高宮町来女木(くるめぎ)
徳島県鳴門市大麻町板東(采女) (うねめ)
徳島県阿南市十八女町(さかりちょう)
香川県高松市女木町(しめぎちょう)
福岡県福岡市西区女原(みょうばる)
福岡県八女市(やめし)
長崎県長崎市女の都(めのと)
長崎県対馬市上県町女連(うなつら)
熊本県葦北郡芦北町女島(めしま)
大分県日田市天瀬町女子畑(おなごはた)
大分県佐伯市女島(めじま)
大分県宇佐市乙女新田、上乙女、下乙女 (おとめ)
鹿児島県西之表市鴨女町(かもめちょう)

<男の付く地名>
北海道天塩郡天塩町男能富(だんのっぷ)
岩手県奥州市江刺区男石おとこいし)
秋田県男鹿市(おじがし)
埼玉県熊谷市男沼(おぬま)
福井県小浜市小浜男山(おとこやま)
静岡県牧之原市男神(おかみ)
滋賀県彦根市男鬼町(おおりちょう)
京都府京都市西京区大原野上里男鹿町(おじかちょう)
京都府八幡市男山(おとこやま)
京都府与謝郡与謝野町男山(おとこやま)
大阪府泉南市男里(おのさと)
兵庫県三木市志染町高男寺(こうなんじ)
和歌山県和歌山市男野芝丁(おのしばちょう)
香川県高松市男木町(おぎちょう)
愛媛県西予市城川町男河内(おんがわち)
熊本県上益城郡山都町男成(おとこなり)
鹿児島県姶良市蒲生町白男(しらお)
鹿児島県薩摩郡さつま町白男川(しらおがわ)

茨城の難読地名 | コメント(0) | トラックバック(0) | 2018/07/07 08:44
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