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水雲問答(23) 媚びて悦ばせる

  これは江戸時代の(長崎)平戸藩の藩主であった松浦静山公が晩年の20年間に毎日書き残した随筆集「甲子夜話(かっしやわ)」に書かれている2人の手紙による問答集を理解しようとする試みです。

雲:白雲山人・板倉綽山(しゃくざん)1785~1820年 上州安中の藩主
水:墨水漁翁・林述斎(じゅっさい):1768~1841年 儒学者で林家(幕府の大学頭)中興の祖
松浦静山・松浦 清 :1760~1841年

水雲問答23

水雲問答(23) 媚びて悦ばせる

雲:
 人心を得申候工夫は、先ず初は何れにも下に媚びて悦ばしめ、悦んで後信じ申候節、寛厳共に術中に有之候。一旦は忍ばざれば、事は得申すまじく候。子産の民に媚びよ。媚びて後信ずと申す語、殊のほか面白く候。

(訳)
 人心を得る工夫として、まず始めは下(民)に媚びて悦ばせるてやれば、悦んだ後には信じて従うことでしょう。そうすれば寛容にするのも、厳格にするのも術中にある事になりましょう。一旦は耐え忍ばなければ、事は得られないと申します。子産(しさん:春秋時代の鄭(てい)の宰相)の言っている「民に媚びよ。媚びて後信ず」という言葉は殊のほか面白いと思います。

水:
 事に処し、物に接する、力を史学に仮らざるべからず。今試に之を論ぜん。子産公孫黒(こうそんこく)を刑し、子南の仇を報ずるの類の如き、多少の手段有り。時事を経歴する者に非ずんば其の妙を解する能(あた)はず。夫(か)の書堆(しょたい)に泪没(こつぼつ)して空言闊論する者の若(ごと)き、理自ら理、事自ら事、判然二途たり、何ぞ能く之を為さん。

(訳)
 事を行い、物に接するには、本当の意味での史学(歴史)に学ばねばなりません。今、この実例(子産の民に媚びよという意味)を論じてみましょう。子産(しさん)が公孫黒(こうそんこく)に刑を下し、子南の仇をとったという話の類は、少し複雑な手段があります。これはいろいろと経験して幅の有る人でなければこの内容(民に媚びよ)の妙を理解できないのです。本ばかりを読んで、空理空論をする者には、真実が見えず、根本の道理と表に現れた事象が判然としないのです。そのため仕事もよくできません。

(コメント)
 中国春秋時代に、子産(しさん)は弱小だった鄭(てい)の国を安定した国にした名宰相といわれている人物ですが、この子産の一族である「子南」が妻を迎えようとした時、同属の公孫黒が男前であったのでその妻を横取りしてしまった。そして公孫黒は邪魔な子南を亡き者にしようと襲ったが逆に傷を負ってしまった。公孫黒はいろいろ手を廻して、今度は子南を国から追放してしまった。しかし、子南はじっと時を待ち、横暴な公孫黒が同属の仲間から嫌われるのを待って、公孫黒を処罰してしまったのです。このように世の中をよく知っている、経験のある人はいろいろな方策があるということを理解することも必要なのでしょう。

 ここでは、歴史書を読んで、その上辺を読んで理解しているだけでは真のことは理解できないといっています。
その歴史や背景などをよく理解して隠されている真意もよく調べることが必要だと述べています。


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水雲問答 | コメント(0) | トラックバック(0) | 2021/03/21 07:12
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