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甲子夜話の面白き世界(第3話)天狗にまつわる話(3)

甲子夜話の世界第3話

<甲子夜話の面白き世界(第3話)天狗にまつわる話(その3)>

《7》 空中を逆さに行く婦人の話し

5、6年前のある席上で坊主衆が語った。 高松侯の世継ぎ貞五郎が語られた話だという。
貞五郎が幼児時に矢ノ倉の邸に住んていて、風鳶(たこ)をあげて遊んでおられた。
すると、向こうの方からなにやら空中を来るのものがいた。
何んなのかと不審に思い見ていると、それが近づいて来た。
それはどうしたことか、婦人が逆さまになって動いてくる。
両足は天に向けて、首は下になり、衣服はまくれていた。
またはっきりとは分らないが女であると見え、号泣する声もよく聞こえた。

どうもこれは、天狗が人をつかみ上げて空中を動いて行っているところと思われたが、天狗の姿は見えず人だけが見えていたという。 
またこのことは、そのそばにいた家臣たちも見たという。

 これとは別に、『池北偶談(中国の怪奇小説集)』に次のような話がある。
『文登の諸生の段階を終わり、夢を求める9歳の時に庭で遊んでいた。
時はお昼頃、天は青く澄みわたり、雲はなかった。
空中を見ると1人の婦人が白馬に乗り、華やかな袿(うちかけ)に白い裾で、馬の手綱をひいて、北から南に非常にゆっくりと移って行った。暫く見ていたが、そのまま遠くまで行き、姿が見えなくなった。
わしの従妹が永清県(中国の県)にいるが、かつて晴れた昼のこと、空中を仰ぎ見ると、美しく艶やかな1人の少女が、朱の衣に白い裾に手には団扇を揺らして南から北へ向かっていったという。久しく見ていたがやがて見えなくなった』

 これも同じような話だが、これらの話は仙人の所為なのか。

巻之30 〔23〕  ← クリック 元記事

《8》 天狗が炎の中を走り廻る話し

 我が荘内にある天祥庵の守僧に、昌信と云う者がある。
この僧とは、日夕の参拝の時に時々はなしを交わす。

ある日、わしは何かの話の中で「どこかで聞いた事があるのだが、出火して大火になると、天狗が炎の中を走り廻って火を延(ひ)くというそうだね」と云うと、「では私の聞いたお話をいたしましょう」と云い、次の話を語った。

「長門侯の家臣の者が江戸から国にもどる途中、侯の命によって伊勢に参詣し、その後で京に行き、各所を見て回った後、正月13日の夕に愛宕山に登った。
 すると日暮れ時の午後4時ころになり、街中の宮川町1丁目荒物屋から出火して、洛中に火が広がり、またたくまに延焼した。
この時、この火災の火は光天を焦がし、満炎はまるで雲のようだった。

この長門侯の家臣の者が愛宕山の山上から街を見下ろすと、その燃えさかる炎の上を、異形非類の者が群れを成して走り回っているのが見えた。
よく見ると、その面には知った者がおり、多くは甲冑を身に着け馬に騎(の)っていた。
まるで戦場のようであった。
この有り様は、この家臣の士ばかりではなく、従僕の輩にもよく見えたという。

そして、この怪は夜が明けて、日が射し始めると、みな消え去ってしまったという。」

これは如何なる者なのか。

はじめにわしが聞いた、火中を天狗が走って火を延(ひ)くと云うのもあながちごまかしの嘘の話しではないのかもしれない。

また世に名高い、昔土佐氏が描いた百鬼夜行という図の中にもこれと同じような見覚えのある怪があった。
これ等は虚謔の為に図にしたものではないだろう。
まったく、奇怪不思議のことだ。

またこんな事も聞いた。
その大火の起こる前の早朝に、12,3ほどの少女が火盆に、燃灰を累々と積み上げて、この火災が起きた荒物屋の中に入っていったという。
隣の家の者たちは、これを見て皆いぶかったが、その火元の家人はまったく気付かなかったという。
ならばこれも、また妖魔天狗の類になるのだろうか。

三篇 巻之67 〔10〕 ← クリック 元記事

《9》 山の中で天狗の宴に遭遇した話し

 ある飛脚か2人づれで箱根を越えているとき、夜も大分更けて、あたりはひとしお凄惨なじょうきょうであった。
そんな中で、山上の方から人の話す声が騒々しく聞こえてきた。

飛脚の2人はこんな夜中にと不審に思いながら声の方に近づいていくと、しばらくすると山上の路傍の芝生に、幕がぐるりと張られており、そこで数人が集まって宴をしているのが見えた。
どうも酒に酔いながら、舞ったり、歌をうたったり、それに弦の音も加わっていた。
通り道ににも幕が張られていて、2人は先に行く事が出来なかった。

 そこで、2人は声をそろえて中の者に「通れませぬ」と告げた。
すると幕の中から「通行しておくれ」という声が聞こえた。
それではと、2人が幕に入ると、幕はこつ然と消えてしまった。

 そして今までしていた笑い声や歓声も絶えて、2人は元の寂々した深山の中に立っていた。
2人は驚き、怖くなって急いでそこから走った。

 すると、しばらく後に、前の弦や歌を歌う人達の声がまた聞こえてきた。
そして、元の場所にはまた幕が前と同じように張られていた。
2人は益々驚いて、飛ぶようにして山を下り、ようやく人の居る所にたどり着いた。

これは世のいわゆる「天狗」であろうか。

巻之23 〔10〕 ← クリック 元記事

《10》 天狗の品、飛銚子の話し

千石和州は伏見奉行で、この地に没したが、この人が日光奉行の時に本当に接したいう逸話がある。

日光の山上に何とかと云う祠があった。
そここに参詣して、願いをかけて、この銚子に酒を入れて置くという。

またそこから一里くらい離れたところにも、また同じような祠が一箇所あった。

前の祠での願いがかなえられた時に、祠の木銚子が自ら一里先のこちらの祠に移り、いつの間にかこちらの祠の中に在るという。

土地の者によると、これは「飛銚子」と呼ばれるものだという。
そのため、山の修験者たちは、ここに信仰拝詣する者が絶えないという。

また、この飛銚子は天狗の品であるのではないかと云っている。
まことに奇異なことである。

巻之二十五  〈13〉 ← クリック 元記事

甲子夜話の面白き世界 | コメント(0) | トラックバック(0) | 2021/09/28 20:17
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