甲子夜話の面白き世界(第9話)狐にまつわる話(1)狐つき

(今までの「甲子夜話の面白き世界」の第1話からは ⇒ こちら から読めます)
今回からは「狐」です。その最初は「狐つき」についてです。
狐は古来から男や女に化けて、人をだましたり、人に取り付いたりするようです。
ここには甲子夜話からそんな話を集めてみました。
《1》 狐つき
ある者に狐がついた。
医薬は勿論、僧巫(そうふ)の祈祷でも離れなかった。
やん方なくある博徒がいて、狐を落とそうではないかと云う。
それで、頼んだ。
博徒は、鮪(まぐろ)の肉をすり身にして当の者の総身に塗り、屋柱に縛り付けた。
そうして、そこに畜犬を連れて来ると、犬は喜んで満身を舐めた。
その者は大いに恐怖を感じ震えながら叫び声を上げた。
やがて狐も落ちたとのこと。
(巻之12 〔25〕 ← クリック 元記事)
《2》 聾者に狐つき
わしの身内に茶道をする老婆がいる。
年七十余りで気持ちの安定が尋常ではない。
どうも狐つきらしいと思われ、よく未来を云い、また過去を説いては違わない。
ややもすれば、ここにいると害に遭うと云っている。
人がその側を離れれば、逃げ出そうとする。
家の者はこれを憂いて祈祷者に占わせた。
ガマの目の法を施せば、この妖魔は去ると云う。
わしはすぐに聞いた。
「どうしてガマの目の法を行うと去るのか。早く邸中の年少の者に、かの家にいって指矢を射させるのだ。そうしたら、妖狐は即去るだろう」。
未だかつてこんなことはなかったが、老婆が云う。
「日を置かず、ガマの目の法を行って下さい。そうすれば、速やかに去るでしょう。やらないと死んでしまいます」。
これで老婆は正常に回復した。奇跡だ。
この老婆は、もともと聾(ろう)だったと聞いたが、狐つきの間はよく人の話が聞くことができ、またいろいろ事を細かく話すことができた。
しかし、狐は去り元の聾(ろう)に戻った。
これもまた奇跡である。
(続編 巻70 〔11〕 ← クリック 元記事)
《3》 浮田秀家女についた妖狐(1)
『雑談集』にある話。
浮田中納言秀家は備前一ヶ国の大主である。
ゆえあってひとり娘に妖狐がついた。
種々の術を尽くせど出ていかない。
それで秀家も心気鬱になり、出仕もやめざるを得なかった。
秀吉はこれを聞き召され、かの娘を城へ召して、狐に速やかに退散する様命じた。
狐は退くという時に次の様に云った。
「私は車裂きの刑に逢うとも退くものかと思いました。しかし、秀吉さまの命にそむくならば、諸大名に令して、西国及び四国の狐までを狩り平らげよとの御心中と察しましたので、今退きます。私の為に多くの狐の命を亡くす事は、如何ともしがたい。だから涙泣きをしつつ立ち去ります」。
翌日、秀家は謝礼として登城して、その始末を言った。
秀吉は頷いて微笑んだという事(『余録』)。
(巻22 〔19〕 ← クリック 元記事)
《4》 浮田秀家女についた妖狐(2)
巻之ニ十ニに浮田秀家の娘に狐がついて離れ去らないのを秀吉公の命でたちまち去った話があった。
また同じ冊の後ろの段に、芸州宮嶋には狐の害がないと云っている。
この頃、太閤の令と云うものを行智に聞いた。
先年、それを見て暗記したと云うのだ。すると浮田の事はこれであろうかと思った。
『その方が支配する野干(やかん、野獣)は、秀吉の召使いの女房に取り付いた為に悩ませている。
何のつもりがあってその仇をなすのか。
その子細は無きものとして、早々に(取り付いた者の体から)引き取られたし。
もし引く時期が延びるとすれば、日本国中に狐狩りを申し付ける。
猶(なお)、委細は吉田神社に(ことごとく)口状申し含む。
秀吉
月 日
稲荷大明神殿え』。
(巻96 〔17〕 ← クリック 元記事)
《5》 安芸の宮嶋には狐つきなし
安芸の宮嶋には狐つきがある事がない。
また他所の人が、狐につかれた者をこの嶋につれて来ると必ず落ちる。
また狐つきの人をかの社頭の鳥居の中にひいて入れると、苦悶大叫して狐がそく落ちると。
神霊はこの如くである。
近頃わしの小臣がこれは実説だったと云う。
これに依ると昔浮田の女(むすめ)が、あばれる狐がおちないので、太閤が西国四国の狐狩りをしようと云ったかどうかは疑わしい。備前宮嶋からの距離はそう遠くはないではないか。
秀家が鼻の前の神験を知らずに、愁い鬱々した日を重ねたというのは、いぶかしい。
(巻22 〔29〕 ← クリック 元記事)
《6》 蝦夷の狐ばかりは人を化かす事を知らない
林の話に、そうじて狐は人を化かすのは何れの国も同じ事なのに、蝦夷の狐ばかりは人を化かす事を知らない。
如何なることにて狐の性が変わるのだろうか。
(巻47 〔10〕 ← クリック 元記事)
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