甲子夜話の面白き世界(第20話)猫おどり

(今までの「甲子夜話の面白き世界」の第1話からは ⇒ こちら から読めます)
今回は「猫踊り」についてである。
今ではSNSや動画配信で、立った猫の画像や、踊りを踊る猫などもさほど珍しくも無くなった。
テレビ漫画「ササエさん」でも猫(タマ)は踊っている。
しかし江戸時代にすでに猫は飼われていたようだが、夜中の灯りの乏しいころに猫が立ち上がり踊ったら化け物と映ったのかも知れない。
《1》 猫の踊り
先年、角筈村(つのはず:現東京都新宿区)に住まわれる伯母殿に仕える医者、高木伯仙が云う話には
「私は下総国の佐倉の生まれだが、亡き父がある夜眠った後、枕元で音がした。
目を覚まして見ると、永年飼っている猫が首に手拭いを被り立ちながら、手をあげて招くようにしている。
その様子は童が飛んだり跳ねたりしている様である。
父はすぐさま枕元の刀を取り猫を斬ろうとした。
猫は驚いて走り出し、今は行方知れず。
それから家に帰らなくなった」と。
そんなことだから、世に云う猫の踊りと云うものは迷い事とはいえないだろう。
(巻之2 〔34〕 ← クリック 元記事)
《2》 猫の踊り(2)
猫のをどりの事は前に云った。
また聞いた。
光照夫人(わしの伯母)が角筈(つのわず)村に住み仕えていて今は鳥越邸に仕える婦人が語った話。
夫人が飼っていた黒毛の老猫は、ある夜、婦人の枕頭で踊ったので、怖くなった婦人は衾を引きかぶって臥してそれを見ないようにしていたが、猫が後ろ足で立って踊る足音がよく聞こえたという。
またこの猫は常に障子の類は自らよく開いたという。
これは、諸人の知る所だけれども、如何にして開くかと云うことを知る者はなしか。
(巻之7 〔24〕 ← クリック 元記事)
次の記事は猫踊りとは関係がないが、猫について書かれたものであるのでここに載せておきます。
《3》 猫だけがかかる病もある
世に解せないことも多いが、基本わしは世に疎いから
「今年10月11月の間、天行の邪気が甚だしくて、老いも若きもみなそれに患に罹って回復する者なし。
但々病の軽重は人々によって違う。
多くは咳となって小児の感じやすいものは衂血(はなぢ)を発せることもある。
わしは医にその説はあるが、また解せない所あるがと問うた。
林子曰く。官家でも出仕の面々が長髪を免され、供人は減少、または長髪等苦しきなき由を令(ふれ)られた。
途中で行列(葬列)を立って往来するのを見ると、徒士から始まった駕脇手廻り等までみな長髪で、喪家の人の往来歟(か)と訝しくなどと、人々は笑っている。
またその後、殿中廻りが済むと、病を押して詰め合う者は、勝手次第退出するようにと令られた。
珍しい程のことである」
わしはこれにつき思うに、10余年にも及ぶ。
猫の疫が流行して、野猫、畜猫、みなこれに罹った。
あるいは故無くて忽ち潰し、または屋上にいるものが俄かに墜落して死す。
これは全くその邪に遭ったものである。
この時人は疾病は無い。
ある人曰く。
1年鼬(いたち)の疾病があって、これも猫と同じかと。
天地間の気は計られぬものである。
林曰く。
牛馬疫のことは諸書でも見た。
小白曰く。
この度ほか邪の流行につき御令等のことは、先年わしが勤めていたときも、これと同じこと両度まであった。
林子も覚えているはずである。
するとこれを珍しいとも云い難い。
(続篇 巻之84 〔11〕 ← クリック 元記事)
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