甲子夜話の面白き世界(第23話)笑い話(落噺)1

(今までの「甲子夜話の面白き世界」の第1話からは ⇒ こちら から読めます)
甲子夜話にはちょっと笑える小話や落し噺なども書かれています。
特に「続篇 巻之17 [1]には<落噺百節>として多くの短い落し噺(笑い話)がまとめて収録されています。
そんな中からいくつかを拾ってみました。(順不同)
<続篇 17巻 1 世俗の落噺百節>
わしの若い頃、世俗の落噺は特に短いものが好まれた。今のものを聞くとは冗長になっている。
是非世の習いの一変を見るはずだ。
ここに記憶しているものを挙げておこう。
《1》 雷風日月の旅
雷風、日月と同行して旅に出て、共に宿に泊まった。
翌朝、雷風は未明に起きて、日月のことを尋ねたがいなかった。
宿の者云わく。日月はとっくに払いを済ませて暁(しののめ)には出発しましたと。
雷風は嘆いて云わく。
「はて月日の立つは早きものじゃ。」
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《2》 十二支へ狐と鶴
十二支のもとへ狐と鶴がやって来て言った。
彼らは禽獣の霊物であり、申し合わせて来たのだ。
「願わくは十二支の中に加え給え」と。
すなわち子と丑が相談した。寅卯以下皆曰く。
「両禽の名を十二支の中に加えるべし。古来より人が称して来ているが、いかが唱えんや」と。
狐鶴曰く。「ならば、狐子丑寅卯辰鶴巳午未と唱えん」。
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《3》 仁王の腰のひねり
仁王の木像に噛んだ紙を吹きつけると、その当たった所が力強くなるという。
参詣の輩が集まって仁王門に向かって紙を吹きつけた。
その中の一人が云った。
「これはしたり。あの紙の中に金子を入れてやした!」。
これを聞いた木像は手を動かして、顔や腕の紙をひねりひねりしたのだと。
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《4》 ゲジゲジの旅
虫けらが連れ立って旅に出た。
ある日みな宿を出たけれども、ゲジゲジだけが一人遅れた。
虫たち「何でおくれんだあ?」と云うと、
「まだ草鞋を履ききらぬよ」と応えた。
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《5》 坊主の顔に落書き
寺の坊主に字を習う者が多くいる。
とかく手習いの子どものいたずらで、昼寝して起きてみると顔に墨でぬり絵がされてある。
それを洗い落とすと、子どもらは寄り合って手を柏ち笑う。
時には朝起きると、夜の間に顔に絵をかき置いている。
坊主は大いに立腹するが甲斐なし。
ある日、子どもが知らない所に行って昼寝をしていて起きた。
だが子どもらが知らぬ所と思うも心元なく、鏡を出した。
「子どもらめ、どうしてわしが寝ていた所を知ったのか。また顔に南天を書きおった!!!」
坊主は鏡の裏を見ていたのじゃった。
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《6》 盗賊の見習い
盗みを学ぶ者がいた。
盗みの師匠が言うには、「戸外に至れば、まず犬猫の鳴き声を出せと。
間違っても人の様子を出さないこと。
また、気配を悟られると、家の主は必ず疑って家人と様子を見ながら「これは誰だろうか」と言い合うだろう。
その時また鳴き声を出し続けると、これ以上は疑うことはない。
この様にして、盗みをすればよい。」
門人は教えを受けて去っていった。
そしてある夜、人家に入り、猫の鳴き声を出した。
主人ははたして疑い、家人とおかしいと語った。
主人はまた疑い、「誰だ?」と問うた。
盗人は外に出てから云った「猫です」。
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《7》 ケチな野郎
ある人が、出口の戸が離れて閉めようと金槌を隣人に借りようとしたが、貸してくれなかった。
その人は怒り、「なんだい、なんだい、ケチな野郎だな。
仕方ねえな。オレのを使うか!」。
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《8》 亡き妻との約束
仲睦まじい夫婦がいた。ところが妻が病にかかりついには危篤になってしまった。
臨終の枕辺で「お前さん、寂しくなったら妻を迎えてね」。
夫は哀しみをこらえて言った。「三年を過ぎずして何ぞその様なことはあるわけねえ」。
妻は悦びつつ一生を終えた。
だが、去るものは疎きものの習いの通り、まだみとせ(三年)も立たぬ内に新婦を迎えた。
その夜、新床の折ふし、仏壇が鳴り出して、旧妻の位牌が転び落ちた。
夫は驚き、思い当たることがあった。
「ああ、これは!亡き妻との誓いに背いたからだ。怒ってるわよと言ってんだ!」。
即発心して菩提を弔おうと、剃刀で元取りを切った。
その時隣人が駆け込んだ。
「只今の地震は強うござんした!」。
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《9》 鶴の鳴き声
ある人が云う。鶴は霊鳥である。
飛んで鳴く時に、雄がツウとな鳴けば雌はルウと鳴いて、雌雄は相応じ、自らその名を唱えると。
座客はこれを聞いて、ある所に出かけ、語った。
「鶴は霊鳥である」。雌雄が連なり飛ぶ時、雄がツルウと鳴くと。
聞き手が問う。「では雌は何と鳴くや?」。
語り手は驚き、やや間があって云った。「雌は何も言わずだった」。
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《10》 鳶と烏の鳴き声
鳶が烏に話しかけた。
「商いをしたいんだが、何を売ったらいいだろうか」。
烏が応えた。「ならばビイドロをうったらどうだい?わしが買おう。お前さんは、いっつも空を飛んでるからな‥だから店はできないぜ。あ、売って回るんだ」。
鳶はビイドロを籠にいれ、あちこちに売りあるいた。
「びいどろろ〜。びいどろろ〜」。
烏は屋根の上、林の木にいる間、「かをう、かをう〜」。
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